2019.06.07
丸山代議士への糾弾決議と日本国憲法の精神
昨日、衆議院で丸山穂高衆議院議員に対する糾弾決議が全会一致でなされた。
決議文の全文は以下の通り。
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議員丸山穂高君は「令和元年度第1回北方四島交流訪問事業」に参加した際、憲法の平和主義に反する発言※1をはじめ、議員としてあるまじき数々の暴言を繰り返し、事前の注意にも拘わらず、過剰に飲酒し泥酔の上、禁じられた外出を試みて、本件北方四島交流事業の円滑な実施を妨げる威力業務妨害とも言うべき行為を行い、わが国の国益を大きく損ない、本院の権威と品位を著しく失墜させたと言わざるを得ず、院として国会議員としての資格はないと断ぜざるを得ない。
よって本院は、ここに丸山君を糾弾し、直ちに、自ら進退について判断するよう促すものである。
右決議する。
〈理由〉
去る5月30日の議院運営委員会理事会における政府関係者の説明によれば、議員丸山穂高君は、四島在住ロシア人と日本国民との相互理解の増進を図り、もって領土問題の解決を含む平和条約締結問題の解決に寄与することを目的とする「令和元年度第1回北方四島交流訪問事業」、いわゆるビザなし交流事業に参加し、国後島を訪問した際、事前に事業の趣旨や注意事項について十分に知らされていたにも拘わらず、5月11日に、ホームビジット先のロシア人島民宅で過剰に飲酒し、宿舎である「友好の家」に戻った際、禁じられている外出を強く希望し、そのために、政府同行者に議員が外出しないよう監視させる業務を強いる結果になったほか、食堂内で、コップで机をたたき、大声を張り上げ、団長に対する報道関係者の取材を妨害し、団長に対して「戦争でこの島を取り返すことに賛成か」「戦争しないとどうしようもなくないか」などと信じ難い暴言を吐いた。※2その後も、他の団員ともみ合いになり、自室に戻った後、再び出て騒いで、職員が戻るように促す、ということを翌日午前1時まで続け、その際、「私は会期中は不逮捕特権で逮捕されない」と述べたり、およそ品位のかけらもない卑猥(ひわい)な言葉を発したりするなどの多大な迷惑行為を行い、翌日には団員たちから、最も重要なロシア人島民の方々との交流会への参加の自粛を求められ、参加しなかったとのことである。
丸山君の行動は、一歩間違えば日本とロシアの重大な外交問題に発展しかねない問題行動であり、これまで関係者が営々と築き上げてきた北方領土問題の解決に向けた努力を一瞬にして無に帰せしめかねないものであり、国民の悲願である北方領土返還に向けた交渉に多大な影響を及ぼし、わが国の国益を大きく損なうものと言わざるを得ない。また、かかる常軌を逸した言動は、本件北方四島交流事業の円滑な実施を妨げる威力業務妨害とも言うべきものであり、その卑猥な言動に至っては、議員としてというよりも人間としての品位を疑わせるものである。
本件事業は、内閣府交付金に基づく補助金を受けた北方四島交流北海道推進委員会の費用負担により実施されているものであり、本院から公式に派遣したものではないにせよ、丸山君は、沖縄および北方問題特別委員会の委員であるが故に、優先的に参加することができたものであり、他の団員からは、本院を代表して参加したものと受け止められており、また、その後の報道により、わが国憲法の基本的原則である平和主義の認識を欠き、およそ品位のかけらもない議員の存在を国内外に知らしめ、衝撃を与えた事実は否めず、本院の権威と品位を著しくおとしめる結果となったと言わざるを得ず、院として国会議員としての資格はないと断ぜざるを得ない。※3
よって本院は、ここに丸山君を糾弾し、直ちに、自ら進退について判断するよう促すものである。
以上が、本決議案を提出する理由である。
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私は丸山氏の言動について弁護をする気は全く無い。ただ、本件はこの丸山氏が良いヤツか悪いヤツか、あるいはけしかるか、けしからぬかという問題ではなく、この国のルールとして法を犯していない国会議員が発言内容や不品行を理由に衆議院から全会一致(小泉進次郎氏は欠席したらしい)で糾弾決議を受けるというのはいささか問題があるように思う。
まず、下線部※1について。日本国憲法には国会議員の憲法擁護義務が規定されている。(第九十九条:天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。)
しかし、これは国会議員などが憲法の精神に反することを口にしてはならないという意味ではなく、憲法を無視した立法・行政・司法などの国家としての作為をしてはならない(憲法を尊重して行え)という規定である。
そもそも、国会議員が憲法の規定と反対の主張をすることは憲法で保障されており(第二十一条:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。)、そして日本国憲法を改正することもでき、且つ、その発議は国会が行うこととされている(第九十六条:この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。以下略)わけだから、憲法を改正する際には国会議員が現行憲法と違う主張をして改正案を発議することは憲法が想定している範疇であって、そのこと自体が憲法擁護義務違反に当たらないのは当然である。
しかし、下線部※1は「憲法の平和主義に反する発言」が糾弾理由のひとつに挙げられている。国民が政治家の発言に疑問や憤慨を感じて批判するのは勿論自由だが、衆議院という機関が一議員の発言をとりあげて糾弾するというのはそもそも憲法の精神に反しているのではないだろうか。
下線部※2について。
戦争を禁じる日本国憲法の時代に「戦争でこの島を取り返すことに賛成か」「戦争しないとどうしようもなくないか」との発言が“信じ難い暴言”だとして糾弾されることと、軍国主義であった時代に「戦争をやめたほうがいいのでは」との発言が“信じがたい暴言”だと糾弾されていたことは、その本質は同じファシズム=全体主義である。
下線部※3では「品位のかけらもない議員の存在を国内外に知らしめ・・・院として国会議員としての資格はないと断ぜざるを得ない。」と結論付けるが、これまでの不倫をした議員などとの、“品位のかけらの有無“の線引きは極めて困難である。
なぜ本件だけが特別なのかと考えると結局は下線部※2のファシズムに行き着く。
なぜファシズム=全体主義か。思うに選挙が近づいていることによって報道や国民感情などの空気はより党利党略的に重視されているからではないだろうか。
維新には問題児とレッテルを張られた丸山議員との決別を鮮明にしてダメージを抑えたい思惑、その他の野党には戦争反対のイメージ戦略、与党にはあまり本質論にこだわって否決でもしようものなら丸山氏をかばっているという新たな批判の標的にされかねないリスク回避の意識があるのだろうが、それら参院選を目前に控えた党利党略の産物としてこのような糾弾決議と言う前例を作ってしまったのは極めて残念である。
本質を見失って空気感で全体主義に走り、戦争へ突き進んだ過去の反省が全くなされていない。